商品詳細
1900年前後には、流れるような曲線の、主にチューブ状のゴールドフレームをベースとしたブローチやペンダントが多く制作されました。そのほとんどが植物をモチーフにしたボタニカルな装飾が施されており、アールヌーボー様式のものとして知られています。一部では、このスタイルのブローチがベルエポック様式と表記されているのを見かけますが、自然主義的なモチーフのみで構成されたものは、アールヌーボーに分類されるのが適切でしょう。
※アンティーク物語『フランスのアンティークジュエリー史概要(後編)』では、アールヌーボーやベルエポックを解説していますので、ぜひご覧になってみてください。
しかし、このスタイルのブローチやペンダントの中にも、ごくわずかですが、ベルエポック様式と呼ぶにふさわしいものが存在します。今回ご紹介するペンダントブローチは、まさにその希少なベルエポック様式の作品です。フランスのアンティークジュエリーに馴染みのある方であれば、リボンなどで装飾された本品が、ベルエポック様式のものであることをお分かりいただけるでしょう。
ベルエポック様式は、ロココなど、18世紀フランス宮廷の美を再解釈したもので、優雅さ、軽やかさ、そして華やかさを表現したスタイルです。18世紀に隆盛を極めたロココ調デザインは、19世紀後半、マリー・アントワネットファンのウジェニー皇后により再評価され、さらにベルエポック期に引き継がれました。代表的な装飾として、リボンやガーランドがよく知られています。
それでは、このブローチの装飾を詳しく見ていきましょう。まず目を惹くのは、最上部のリボンです。ミルグレイン装飾が施されたプラチナ製のリボンは、左右に大きく広がり、前方への膨らみも持つ、大変繊細な作りです(リボン装飾については、アンティーク物語『アンティークジュエリーとリボンモチーフ』を参照ください)。センターにはガーネットが、そして目立たないながらも4つのダイヤモンドが留められています。
中央のフラワーバスケット(花籠)も見事です。バスケットのハンドルがリボンにぶら下げられているデザインには、細部にまでこだわった職人の魂が感じられます。また、籐の編み込みのような質感や、丁寧に彫り出された花など、細工も非常に細密。このサイズのものをここまで丁寧に彫り上げた技術にただ驚くばかりです。二つのシードパールと、ダイヤモンドが留められたプラチナの花で飾られていますが、決して派手なものではありません。宝石をあふれるようにセッティングした、ジャルディネッティ(giardinetti)と呼ばれる花籠スタイルとは少し異なります。このブローチの魅力は、宝石ではなく、ゴールドとプラチナの繊細な細工そのものにあるのです。
ブローチ下部には、月桂樹のガーランド装飾が施されています。月桂樹は古代ローマやギリシャで勝利の象徴とされたモチーフで、ガーランド装飾には欠かせない要素の一つです。ガーランドは古代から伝わる装飾で、ロココ風のデザインを好んだマリー・アントワネットが特に愛したことで知られています。ベルエポック期にも大変な人気を博し、この様式を代表するモチーフの一つといっても過言ではありません(アンティーク物語『ガーランドとアンティークジュエリー』を参照ください)。
また、決して派手に自己主張はしていませんが、ゴールドフレームのに施された繊細な筋状の模様や、ブローチ両端のサルタイヤー(斜め十字)装飾なども、この作品の高級感を一層高めています。
ブローチピンと留め具のCクラスプに18Kゴールドを示すフランスの馬の頭刻印(1838年~1919年)が押印されています。
チェーンの留め具がペンダント用の環を通らない場合は、こちらにお好みの丸カンなどを取り付けてご利用ください。本体と色味がやや異なりますが、ペンダント着画で使用した丸カンをサービスで同梱いたします。
ジュエリーという枠を超え、美術品・芸術品と呼ぶに値する作品です。ロココ装飾が数多く盛り込まれたこのブローチを手のひらに乗せると、フランス王宮が栄華を極めた18世紀や、ベルエポックという華やかな世界が蘇り、時代を超えて自分のもとに届いたかのような不思議な感覚に包まれます。
※商品写真のチェーンやジュエリーボックスは付属しません。