商品詳細
ふっくら丸みを帯びた盾形のブラックオニキスの上に、ダイヤモンドの忘れな草をあしらったブローチです。カルトゥーシュ装飾とコロネット(冠)が盾を取り囲むロココ・リバイバル調のデザインが、当時のフランス貴族社会の優雅さと威厳を感じさせます。
※本品は、『”Jiji”コレクションのオークション』で仕入れた5品のうちの1品です。
盾を取り囲むカルトゥーシュ装飾やコロネット(冠)は18Kゴールド製。裏面には、ブローチピンと、垂れ飾り(pampille)や懐中時計を吊り下げることができるフックが取り付けられており、これらの素材も18Kゴールドです。また、忘れな草のダイヤモンドにはローズカットが施され、茎などを表現した細密なゴールドの台座にセットされています。ピンとCクラスプにフクロウ刻印が押印されています。
ブローチの上部に施されている王冠のような装飾は、伯爵冠(couronne comtale)です。伯爵冠は頭に被るための物理的な冠ではなく、紋章の盾の上に載せて「私は伯爵である」という家柄を示すための記号(紋章のパーツ)として作られています。フランス紋章学の伝統的定義では、「16個の大粒真珠のうち9個が正面から視認でき、それぞれが独立した突起の上に置かれる」とされていますが、他にベルギー、オランダ、イタリアなど、多くの大陸ヨーロッパ国でも採用されているデザインです。
このような冠付き紋章デザインの装身具を身につけることは、かつてはその身分の証明も伴う貴族の特権でした。しかし、七月王政期に称号の詐称がもはや犯罪とみなされなくなったことや、ナポレオン3世がこの点にあまり関心を持たなかったため、19世紀半ば以降は、相応の財力と社会的地位を持つ人物であれば、こうした意匠を選ぶことが可能であったようです。
盾形のシルエットも紋章の伝統的な形から採られたもので、盾はもともとアイデンティティ・保護・血統・名誉を象徴するとされています。盾を取り囲んでいるゴールドのカルトゥーシュ装飾は紋章デザインにおいてサポーターと呼ばれるパーツで、本ブローチにあしらわれているのは、Cスクロールというロココ調の渦巻き文様です。下部には、大小2段の球を連ねたドロップ型の先端飾りが置かれています。
オニキスの上に描かれたダイヤモンドの忘れな草は18世紀初頭からジュエリーに取入れられ、19世紀にかけて「愛」「追憶」「忠誠」「追悼」を象徴するモチーフとして定着しました。愛する人との永遠の絆や愛(センチメンタル)、故人への追悼(モーニング)、その両方に用いられた、センチメンタル・ジュエリーの代表的なデザインの一つといえます。私も大好きなデザインで、アンティークジュエリーではブローチに限らず、リングやペンダントなどでもご覧になった方は多いのではないでしょうか。
本ブローチがセンチメンタル・ジュエリーであることは間違いありませんが、愛や忠誠などの感情を表現するジュエリーなのか、追悼のモーニングジュエリーなのか、どちらであるかを断定することはできません(黒い色のものが全てモーニングジュエリーであるというわけではないのです)。そのどちらであっても変わらないのは、コロネット(冠)を戴いた盾という、紋章学に由来する高貴な家柄や身分を表すデザインを使用し、「"Forget me not"、私を忘れないでほしい(または私はあなたを忘れない)」という想いを込めた、パーソナルで感傷的な一品だという点です。
歴史的背景を知れば知るほど、興味深さが増すお品です。このブローチを実際に手に取って、どのような人がどのような想いを込めて身につけていたのかを想像してみるのも楽しいのではないでしょうか。コアなアンティークジュエリーファンにお勧めしたい一品です。
※商品写真のジュエリーボックスは付属しません。