フクロウ(Hibou)はフランス刻印のジョーカー?

フランスの刻印(本記事では貴金属の保証を行うホールマーク、”poinçon de garantie”を指します)は一見シンプルなようでいて、その歴史・過去の変遷まで含めるとかなりわかりづらいものであるといえるでしょう。確実な情報を押さえておかないと、特にアンティーク品など古い物を扱う場合に誤った判断をしてしまう可能性が大きくなります。特にフランスのネットには誤情報が多いのでご注意ください。

この記事ではその多様性やオフィシャル情報の少なさから誤解されることの多いフランスの刻印フクロウ(Hibou)について解説します("Hibou"はフランス語でそのままフクロウの意味)。それではまずフクロウの実物を見てみましょう。これまで数多く使用されてきたフランスの刻印の中でも1、2を争う可愛さ!おどろおどろしいイメージの刻印が多い中、この愛嬌ある漫画チックなデザインはかなり個性的です。

アンティークジュエリーに押印されたフクロウ(Hibou)の刻印


フクロウが保証する金の含有量は「最低」18K(750‰)。24Kや22Kであっても特にその表記はありません。フランスのアンティークジュエリーを扱ったことのある方であれば、現役で使用されているこの刻印を目にされたことも多いのではないでしょうか。

多くの場合フクロウのお腹には、記号や数字が印字されています。これは刻印したbureau de graniteの所在地を示すもので、例えばパリは数字の75です。
フクロウ本体の左横や左右両側に斜線のあるものは、ゴールド以外の金属が使用されていることを示しています(割金除く)。ゴールド部の割合が50%を超える場合は左側のみ、下回る場合は両側に斜線が引かれますが、まず斜線のついたフクロウにお目にかかることはないでしょう。

フランス刻印のフクロウ(Hibou)3種

この刻印、オフィシャルには”origine étrangère ou incertaine”(海外製か出所不明のもの)に使用されると表記されています。この文面を見ただけでは、主に輸入品に対する刻印であるという印象をお持ちになるかもしれません。

それではフクロウの歴史と、実際に現場でどのように使われているかを見ていきましょう。

使用が始まったのは1893年で、導入から10年近くは輸入品に対する刻印でした。1902年からは、出所不明である中古・アンティークの金製品にも適用されることになり、巷では"poinçon de hazard"とも呼ばれるようになりました。"hazard"は一般的に「偶然」という意味で使われることが多いですが、この場合、不明な、とか、よくわからない、というニュアンスで使用されています。

ではフクロウはいつどのような場所でどのようなものに押印されるのでしょうか?

フランスで販売される一定重量以上の貴金属(金、銀、またはプラチナ)を使用した宝飾品には新品・中古を問わず刻印がなければなりません。実態としては基準重量以上のものでも刻印の無い貴金属製品が販売されていることも多いのですが、一応法律ではそのように定められています。ちなみに基準最低重量は法改正により何度か増える方向に改定されています。フランスで刻印制度が始まったのは13世紀頃。16世紀にはHenri3世により押印時の徴税も始まりました(2018年末で終了)。

刻印の無いジュエリーが多く存在するのは、刻印時の税金支払いや、刻印された製品の面倒な管理(個人名の記載も求められる仕入れ・販売台帳をつけることが義務化される)を避けるために、あえて刻印をしないケースも多数存在したためです。また、路面店で販売しないオーダーメード品や、家族・知人のために制作されたジュエリーにはほぼ刻印がありませんでした。素晴らしい作品に物理的なキズを付けたくないとの思いから、刻印をためらうジュエラーもいたようです。これは現在のアンティークジュエリー業者についても同様です。
18K以上を保証するフクロウとは直接関係ありませんが、ナポレオン法典による過去の金の含有量規則の影響で刻印されなかったジュエリーも数多く存在します。このトピックはいずれあらためてご紹介させていただきます。

 これらの刻印の無い製品を、遵法精神を持ったアンティークジュエリー業者、競売人、公益質屋("Crédit municipal"、質草をとって低利で貸付を行う組織)などが”bureau de garantie"(刻印に携わるアセイオフィス的な税関の一部門)に持ち込み、検査と刻印が行われます。”bureau de garantie"では、判読可能なフランスの刻印(メーカーズマーク含む)が無い18K以上の製品についてはフクロウが刻印されますので、持ち込まれた製品の多くがフクロウ刻印となるわけです。

フランス税関の保証刻印部門におけるゴールド含有量テスト風景出典:DOUANE FRANÇAISE

このような経緯で刻印されるものであるため、もちろんフクロウが導入された1893年より古いジュエリーにもフクロウが刻印されていることがあります。余談ですが、メーカーズマークなどでフランス製であることが証明できる場合は(金の含有量に応じて)イーグルヘッドなどが刻印されることもあることを認識しておいてください。イーグルヘッドのスタイルはこれまで何度かマイナーチェンジが行われましたが、新しいスタイルのものがとても古いジュエリーに刻印されているケースもあるのです。

 フランスでは、フクロウが「年代と出所が不明なジュエリーに刻印される」とシンプルに説明されることも多いです。もちろん輸入時に刻印されることもありますが、 フランスの老舗アンティークジュエリーショップでもフクロウ刻印のジュエリーがフランスのものとして販売されているのをよく見かけます。

当店ではオーナーの母親の祖国がフランスであるという背景から、フクロウ刻印でもフランスが原産国であると思われるものを優先的に仕入れています。また、仕入れ後も多角的な観点から判定を行い、商品紹介においてその原産国を提示させていただいております。

ざっとフクロウ(Hibou)刻印の紹介をさせていただきました。現在も使用されているメジャーな刻印ですが、その背景を紐解いていくと少し不思議なキャラクター像が見えてきたのではないでしょうか。また、今回の記事で、刻印は必ずしも制作時に押印されるものではないということをご理解いただけたと思います。100年以上前のジュエリーに、近年イーグルヘッドやフクロウなどが刻印されるケースもざらにあるのです。

今回はフクロウに絞って刻印の背景をご紹介いたしましたが、フランスにおける刻印制度そのもの、その歴史などに関する記事をいずれアップさせていただく予定です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!