”Jiji”コレクションのオークション
Bonjour皆さん!オーナーのラファエルです。
普段は「アンティーク物語」でお目にかかっていますが、今回は日記的な内容になりますので、こちらのショップブログで記事を公開させていただきます。
先日、個人的にとても注目していたフランスのオークションに参加しました。「Jiji(ジジ)」という愛称で親しまれた女性コレクターが一生をかけて集めたアンティークジュエリーコレクションのオークションです。とても魅力的なコレクションで、今回当店もいくつかのピースを入手することができましたので、そのJijiという女性のことや、彼女のコレクションについて少しご紹介させていただきます。
大コレクションの放出
アンティークジュエリーを扱っていると、ごく稀に「これは見逃せない」という特別なオークションに出会うことがあります。
6月下旬から7月頭にかけて、フランス・ノルマンディー地方の歴史ある港湾都市で開催された「ジャクリーヌ・ジェンナー・コレクション(通称:Jijiコレクション)」は、まさにそういった特別なオークションでした。
まず、驚くべきはその規模です。出品数は実に1,623点にものぼり、19世紀を中心としたアンティークジュエリーや高級時計などが、6日間にわたって競売にかけられました。これはJijiの2023年の逝去(95歳)に伴うものです。
これほどの質量を誇るプライベートコレクションが一度に市場へ出ることは滅多にありません。また、そのロット数からもわかるように、一つ一つのジュエリーは数千万~数億円の値が付くような王室系ジュエリーとは一線を画す、現実的な価格帯のもの。「手が届くアンティーク」として注目されていたのです。しかも場数を踏んだベテランコレクターの厳しい審美眼にかなう品質を持っていますので、アンティークジュエリー愛好家にとってまさに夢のようなオークションでした。
"Jiji"はフランスのコレクター間では以前から知られた存在でしたので、このオークション開催のニュースが流れたときは、フランス中のディーラーが色めき立ったはずです。私も開催の数日前から、注目しているロットについて地金や石留めの状態、その造りなど、納得がいくまで調査・吟味しました。実際の競売が始まってからも、あとからあとから入るビッドの熱気に圧倒されてしまったのを覚えています。

オークションハウスに通い詰めた女性、Jiji
Jijiことジャクリーヌ・ジェンナーは、オークションが開催されたノルマンディーの町で暮らしていた小柄な女性です。本名よりも"Jiji"の愛称で親しまれ、二本の三つ編みがトレードマークでした(晩年の写真を見ると、いずれかのタイミングで三つ編みは卒業していたようです)。
普段はとても控えめで静かな方だったそうですが、オークションの展示会や販売が始まるとガラッと雰囲気が変わったそうです。いつも最前列の席に陣取り、お目当ての品を食い入るように見つめ、熱心に買い求めていたといわれています。
地元の町はもちろん、パリのオテル・ドルオー(Hôtel Drouot、フランス最大級のオークションハウスとして知られ、世界中のコレクターやディーラーが集うアンティーク市場の中心的存在)にも40年にわたって足を運び続けました。 周囲には「ちょっとパリまで買い物に行ってくる」と言って出かけていたそうですが、その行き先が実は世界最高峰の競売場なのですから、なんとも格好いいエピソードですね。彼女にとってオークションハウスは、特別な社交場ではなく、日常生活と地続きにあるお買い物の場所だったのでしょう。
一貫した審美眼
今回のオークションで圧倒されたのは、ラインナップの幅広さそのものだけではなく、その多様なジャンル全てにおいて彼女が妥協を一切許さなかったという点です。
ナポレオン時代のネオクラシカルなデザインから、ベルエポックのプラチナワークや、アールヌーボーの有機的なデザイン、緻密なカメオやマイクロモザイクに至るまで技術も時代も異なる1,623点ものピースを揃えながら、そのどれをとっても高い品質の水準を保っています。ジュエリーの状態、デザイン、希少さ、いずれも素晴らしいものばかりです。
そのジャンルの広さから一見すると脈絡がないコレクションのようにも見えるのですが、通して見ると一本の強い芯が通っています。「有名だから」「資産価値があるから」といった俗な?基準ではなく、彼女自身の美意識にかなったものだけを、丁寧に、時間をかけて集めてきたことが伝わってくるコレクションなのです。
コレクションには最高品質のダイヤモンドやロシアのウラル産エメラルドといった一級の宝石を使用したもの、19世紀フランスの偉大なジュエラーによる極めて希少な作品も含まれていました。しかし、彼女のコレクションは、抜群に素晴らしい造形ながらも現実的な価格帯のアイテムが多くを占めています。宝石、素材の価値や名前に頼るのではなく、直観的な美しさに主眼を置いているのです。カタログに目を通すと、いかにもJijiが選びそうな作品だ、と、お会いしたこともない彼女の美学や人となりが浮かび上がってくるようでした。

社会への還元
このオークションがこれほど話題になったのには、もう一つ理由があります。 Jijiは生前、自分が生涯をかけて集めたコレクションをすべて売却し、その収益を慈善団体へ寄付してほしいという遺志を残していたのです。
数日間に渡るオークションが完了し、売却益は困窮者支援や動物保護、地域の文化活動へ全額寄付されることになりました。 40年分の情熱の結晶を、最後は社会へと還していくという、 その潔い引き際にはただ感動するばかりです。ちょっと気取った言い方をすれば、このオークションは、一人の人間がアンティークジュエリーという芸術に捧げた人生の、あまりにも美しく人間愛に満ちた幕引きの記録なのではないでしょうか。
受け継がれるアンティークジュエリー
今回の熾烈な競りの中で、幸運にも5点の素晴らしい作品を落札することができました。 もちろん、純粋にその作りやデザインの美しさを評価してのことですが、「Jijiの審美眼で選ばれたジュエリー」という背景も、私にとって高い価値を持っています。
アンティークジュエリーは、100年、200年という時間を旅していくアイテムです。今回メゾンマエアスにやってきた作品たちも、長い旅路の途中でJijiという素晴らしいコレクターに愛され、その後、当店にたどりついたのです。
これからオンラインショップでご紹介する際は、デザインや宝石の素晴らしさはもちろんのこと、「Jijiコレクションからやってきたピース」であることも、一緒にお伝えしたいと思っています。作品そのものだけでなく、それを愛した人の歴史を一緒に受け継いでいくという、アンティークの醍醐味の一つを楽しんでいただければ幸いです。ぜひこれらのジュエリーを皆さまの手で後世につないでいってください。
