昆虫ジュエリーの歴史と魅力

Bonjour 皆さん!オーナーのラファエルです。

皆様は昆虫モチーフのジュエリーにどのような印象をお持ちでしょうか。個性的、異様、自然を身近に感じる、などなど、さまざまな捉え方があるようです。

昆虫モチーフは、ジュエリー、アート、ファッションなどにおいて好みの分かれるデザインであるといえるでしょう。実物の気味悪さとアート作品を切り離して考えることができない人々がいる一方、この小さな生き物のデザインを楽しみ、身に着けたり家に飾ったりすることを好む方々も多くいらっしゃいます。

欧米でも好みが分かれる傾向にはありますが、猫や犬など現実世界でも可愛いと感じるモチーフに偏りがちな日本とは少し事情が異なります。昆虫モチーフは、熱狂的に支持する方の多い、れっきとしたアンティークジュエリーのコレクションジャンルなのです。

本記事では少しでもこのジャンルに興味を持っていただけるよう、その歴史や魅力をご紹介させていただきます。

昆虫ジュエリーの歴史

 アンティークジュエリーの世界では、昆虫をモチーフにしたデザインが古くから人気を博していました。その歴史は古代エジプト時代に遡ります。

エジプトでは前王朝時代から王朝時代、そしてグレコローマン時代にかけて、甲虫モチーフ(特にスカラベ)をお守り、印章、副葬品、そしてジュエリーとして使用していました。石などを加工するだけではなく、実物の標本も使われていたようです。

前王朝時代では釉薬をかけた滑石で作られたものが主流でしたが、王朝時代に入るとラピスラズリ製のものも出現します。

エジプト王朝時代のスカラベ像出典:メトロポリタン美術館

 古代エジプトにおいてスカラベは神聖視されていました。その別名「フンコロガシ」が示す通り、この甲虫は動物の糞を球状にし、後ろ足で転がし移動させる習性があります。このとき東を向いて進むことから、この行為が日の出~日没までの日の経過に例えられるようになりました。

また、移動先の土中に埋められた糞球の中に卵が産みつけられ、地面から幼虫が出現します。この様子と糞球の移動を見て、スカラベは再生と復活に関連付けられました。スカラベを模したジュエリーは、死後の世界における再生を祈るためのお守りとして身に着けられることが多かったのです。

 その後、ヨーロッパにおいてルネサンス期とバロック期(14世紀~17世紀初頭)に昆虫モチーフのジュエリーが流行しました。宝飾師たちがエナメルや宝石などでユニークなデザインの昆虫ジュエリーを制作。自然の尊厳や美しさを象徴するもので、貴族など高貴な人々の間で愛されました。

蝶が彫られた指輪(リング)

バロック期:蝶が描かれたリング 出典:ルーブル美術館

ヴィクトリア時代(1837年~1901年)にも昆虫ジュエリーは多く作られました。そもそもこの時代のジュエリーは自然主義的なデザインが特徴であり、昆虫を含む自然界のモチーフが多く取り入れらたのです。特に好まれたのは、ミツバチ、蝶、甲虫、トンボなど。

このトレンドが広まった原因の一つはヴィクトリア女王。昆虫モチーフのジュエリーを愛用しており、その影響で人気に拍車がかかったのです。モーニングジュエリーしかり、ヴィクトリア女王のインフルエンサーとしての力はまさに絶大であったといえるでしょう。

それではこの時代の当店在庫を一つご覧ください。イギリスでヴィクトリアン時代後期に制作された蜂モチーフのブローチです。ダイヤモンド、ムーンストーン、アンデシン、サファイア、ガーネットが使用されています。

ムーンストーンの蜂ブローチ

 その後のイギリスのエドワーディアン期や、ほぼ同時期のフランス・アールヌーボー期にも昆虫ジュエリーは人気を博しました。アールヌーボーも自然環境との調和を目指したムーヴメントですので、とても相性が良いのです。

巨匠ルネ・ラリックのドラゴンフライ・ウーマン(トンボ)はご存じの方も多いのではないでしょうか。他にもジョルジュ・フーケやアンリ・ヴェヴェールなどのジュエラーたちが競って昆虫モチーフのジュエリーを制作しました。

アールヌーボー後期にフランスで制作された蝶のブローチをご紹介しましょう。アールヌーボーらしい美しいカーブが目を惹くデザインです。

蝶のフィリグリーゴールドブローチ

 同時期の当店在庫をもう一つ。トンボのペンダントネックレス(イギリス製)です。

エメラルドとダイヤモンドのトンボペンダント(アールヌーボー)

昆虫ジュエリーの魅力

冒頭でもお伝えした通り、このモチーフは好き嫌いがはっきり分かれます。好まれない方がいらっしゃるのはとても残念。長い歴史と深い背景を持つ魅力的なジュエリーですので、ぜひ興味を持っていただきたいと考えています。

そこで、昆虫ジュエリーの魅力をまとめてみました。
確かに独特で、一般的には女性向けとは考えられにくいモチーフですが、個性やストーリーを重視する現代の日本人女性にとって魅力的なポイントもたくさんあります。

①象徴性(ストーリーテリング)
多くの場合、それぞれのデザインに物語や象徴的な意味が込められています。例えば、蜂は勤勉さや繁栄、蝶は変身や再生、トンボは勇気や機敏性を象徴しています。古代エジプトの章でご紹介したスカラベも再生と復活に関連していましたね。

私たちは世界の一部をロマンチックに捉え解釈することが大好き。言葉でコミュニケーションを取ることができない昆虫も対象となります。また、時代や文化によって象徴するものが異なり、それぞれ独自の解釈を持っているところも興味深いですね。これは昆虫ジュエリーが人々の価値観や信仰心などを反映していることによるものです。

 ②自然とのつながり
昆虫は自然の一部です。その美しさや秘められた神秘性をジュエリーに取り入れることで、自然とのつながりや環境保護への意識を示すことができます。自然界の驚異を身に着けることは、その美しさだけでなく、自然への敬意を示す行為でもあるのです。 

③個性の発現
他のジュエリーにはない独特なデザインは魅力的。昆虫モチーフは、他のアクセサリーと一線を画す個性的なアイテムとなり、ファッションにおいて差別化を図ることができます。他人とは異なる個性を表現したい方々にとって検討に値する選択肢であるといえるでしょう。

④細工の美しさ
19世紀末~20世紀初頭の昆虫ジュエリーの優れた点として、精緻な細工や繊細なデザインを挙げることができます。昆虫のはねや足などを細かく表現したジュエリーは見た目も美しく、その高度な技術と芸術性が美を超えた価値をジュエリーに与えているのです。

⑤歴史的な価値
奥深い歴史的背景や文化的な価値を持っています。それぞれの時代や文化に応じた象徴性や美意識を映し出しているのです。歴史的な価値については他のアンティークジュエリーと共通する部分もありますが、他には無い際立った象徴性を持つことから、より過去の歴史と深く結びついていると考えられます。

まとめ

アンティークジュエリーにおける昆虫モチーフのデザインは、その歴史的背景とともに、多くの人々に愛され続けています。古代エジプトから現代に至るまで、その芸術性と象徴的な意味によって、長い間人々の心を魅了してきたのです。

時代を超えて受け継がれる歴史的な芸術品をぜひご愛用ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!