商品詳細
19世紀後半にフランスで制作された、長方形の18Kゴールドリングです。外枠の長方形の中に、さらに黒いエナメルで縁取られた一回り小さな長方形が配置されている、入れ子構造の非常に美しい幾何学デザインが目を惹きます。
台座にびっしり留められているのは計22個もの天然真珠(シードパール)です。制作されてから150年以上経過していますが、いずれも美しい照りと色を保っており、このリングに上品さとフェミナンな柔らかさを与えています。黒いエナメルのラインはシャンルヴェ(champlevé)という、金属を彫り込んでその窪みにエナメルを詰める技法で施されたものです(『色彩の魔法 ー アンティークジュエリーを彩るエナメル技法』をご参照ください)。
ショルダーには細密で立体的なスクロール(ヴォリュート)装飾が施されています。スクロール装飾でショルダーを飾るスタイルは19世紀全般に見られ、特定の時代や地域に限定されない古典的なデザイン要素として用いられてきました。ヴィクトリアン様式として認識されている方も多いかもしれませんね。本リングでは、左右対称に配されたCスクロールと、その下に置かれたリーフ(葉)模様で構成されています。ルーペ等で観察すると、均一な型押しによるものではなく、手仕事によって細部までしっかりと彫り込まれているものであることがわかります。刻印はありませんが、当店にて科学的な検査を行い、18Kゴールドであることを確認しております。
19世紀フランスのアンティークジュエリーを見慣れている方であれば、本リングをひと目見て、ナポレオン3世様式(第2帝政様式)のジュエリーだと感じられるのではないでしょうか。ナポレオン3世期の装飾芸術は折衷主義(一つの様式や流派に固執しないで、それぞれの良い部分を取り入れる)を基本とし、過去の多様な要素を取り込んでいました。新古典主義、ネオ・ルネサンス様式、ロココ・リバイバル、古代趣味、自然主義など、多くの様式が混在していた時代です。イギリス発のモーニングジュエリーの影響も受けています。特定の様式を強く意識したデザインのジュエリーもたくさんありましたが、異なる様式を1つのジュエリーに統合することもこの時代の特徴でした。
本リングで最もナポレオン3世様式を感じさせるのは、やはり黒エナメルのラインでしょう。この時代にエナメルが多用されたのは、ルネサンス期のエナメル飾りの技法が再評価されたためです。特にゴールドの表面を黒のシャンルヴェ・エナメルで装飾する表現も盛んに用いられ、ブラックエナメルとゴールドの組み合わせが定番化しました。金地を残しながらエナメル部分を彫り分けるあのタイユ・デパルニュ技法も、シャンルヴェによる装飾の一つの表現です。
エナメルの色に黒が多く用いられたのは、モーニングジュエリーやハーフ・モーニング(半喪、Demi-deuil)の影響といわれています。ただし、その影響を受けたのは、「喪」という観点よりも、デザインに対するものです。英米系の解説でありがちな、「黒が使われている19世紀後半のヨーロピアン・アンティークジュエリーはみなモーニングジュエリーである」という分類はかなり一面的といわざるを得ないでしょう。フランスでは、黒は悲しみを示すためというよりは、ゴールドカラーを引き立てる、シックな色として好まれたという側面が強いのです。
黒エナメルとゴールド、パールが描き出す美しいコントラストに、ナポレオン3世期ならではの洗練された趣が感じられる逸品です。ショルダーの美しい装飾に垣間見える手仕事の跡とともに、今なお色褪せない19世紀の造形美を、ぜひお手元でご堪能ください。
※商品写真のジュエリーボックスは付属しません