商品詳細
19世紀半ば頃にフランスで制作された、エナメルのミニアチュールブローチです。羊飼いの少女が描かれたポーセリン(磁器)の周りを30個もの天然真珠が取り囲んでおり、大変美しい輝きを持ったマザーオブパールで裏打ちされています。天然真珠の台座は円形のものが中心ですが、6か所に四角形の台座を取り入れることで、このブローチにアクセントと特別な個性をもたらしています。18世紀後半から19世紀にかけて大変人気のあったロココ調のミニアチュールブローチは現代でも高く評価されており、特に羊飼いの少女像は、アンティークジュエリーファンの根強い支持を集めている特別なモチーフです。
羊飼いの少女は、ゆるやかに盛り上がったポーセリンの上に細密な手書きで描かれています。この部分は、ホワイトの上に黒・グレーをベースとした色調で描かれていますので、グリザイユ・エナメルと呼んでも差し支えないでしょう。
※グリザイユ・エナメルについては、アンティーク物語『色彩の魔法 ー アンティークジュエリーを彩るエナメル技法』をご参照ください。
花で溢れる籐のかごを足元に置き、横に犬と羊を従えた少女が手に持っているのは手紙。現代の封筒スタイルではなく、一枚の紙を四つ折りにして、封蝋で封印したものです。これはもちろんラブレターで、遠く離れた愛する人に想いを馳せるという、ロマンチックな情景を表しています。淡いピンクの空と、遠くにお城が見えるデザインは、このスタイルのミニアチュールの定番といえるでしょう。
羊飼いの少女は、深い芸術史的・社会的な背景を持つ、ロココ時代を象徴する理想化された女性像です。「争いのない自然の中で羊飼いたちが恋をし、詩を歌う楽園」というモチーフの源流は古代ギリシャ・ローマに遡りますが、本格的な流行は18世紀フランス・ロココ時代。18世紀には、フランス宮廷で「田園回帰」のファッションが爆発的に流行しました。ヴェルサイユの退廃的な宮廷生活からの逃避として、貴族たちが「素朴な田舎生活」を演じたのです。さらに、貴族の女性が「私は無垢で自然な女性です」とアピールするために、肖像画やミニアチュールを羊飼いの少女の姿で作らせるのが大きなブームになりました。これは単なるファッションではなく、「私は退廃的な宮廷人ではなく、純粋な魂の持ち主です」という自己演出なのです。
フランス革命(1789年~)後、このテーマは一時下火になりますが、ロマンティシズム(18世紀末から19世紀にかけてヨーロッパに興った、ロマン主義とも呼ばれる芸術運動)の影響で再び田園を理想とする考え方が広まり、ナポレオン1世の時代から、ナポレオン3世期にかけて復活しました。なお、19世紀は、本ブローチのようなロココ調のイメージを引き継ぐデザインと、バルビゾン派のような自然主義的農民画のスタイル(例:『アンティークロケットペンダント ミニアチュール(羊飼いの娘)と50個の天然真珠』)が併存していた時期でもあります。
本ブローチに描かれたスタイルは、「ブーシェ風」と表現されることもありますので覚えておきましょう。フランソワ・ブーシェはルイ15世の愛人ポンパドゥール夫人の御用画家で、甘美で官能的な羊飼いの少女をたくさん描いたことでも知られています。ブーシェの羊飼いの少女は、ふくよかな肢体、低めのデコルテ、ピンクの頰、いたずらっぽい視線が特徴で、純粋さと甘美さを併せ持っていました。
フレームは18Kゴールド製で、留め具のCクラスプに、フランスのイーグルヘッド刻印が押印されています。
このブローチは、ロココからロマンティシズムへと続く時代の流れの中で、「純粋な魂」の象徴と「甘美な魅力」を同時に体現した、歴史と芸術の物語を宿す特別なアンティークジュエリーです。ぜひあなたのコレクションとして、この物語に思いを馳せてください。
※写真のジュエリーボックスは付属しません。