商品詳細
10個のルビー、12個のサファイア、29個のダイヤモンドが留められた、スカラベモチーフのペンダントです。18Kゴールドのフレームにシルバーのダイヤモンド台座という、19世紀の典型的な組み合わせで作られています。スカラベと、それを取り囲む楕円形の飾り枠が組み合わされた構造で、裏からご覧いただくと、この二つのパーツが、4か所の留め環によって連結さられているのがわかります。手に取っていただくと、ほんのわずかではありますが、環の遊びによる動きが感じられる、大変ユニークな作りです。
スカラベモチーフは、フランスでのアンティークジュエリー買い付け時に、時折目にするアイテム。多くはハードストーンなどをそのままスカラベ型に掘り出したもので、リングやシンプルなペンダントに仕立てられたものが多いように感じます。本ペンダントは、そのようなスカラベジュエリーの中でも、ひときわ贅沢な仕立てと、細部にまで凝らされた細工が目を惹く、特別なお品です。写真や版画などを除き、ここまで贅を尽くしたものには、他に出会ったことがありません。
当ショップをいつもご覧いただいている皆様でしたら、スカラベがエジプトマニアの代表的なモチーフであることをご存じかと思います。「エジプトマニア」とは、古代エジプトの文化、芸術、建築などへの強い関心や熱狂を指す言葉。ナポレオンのエジプト遠征や、ツタンカーメン王墓の発見など、エジプトにまつわるイベントを契機として、特に19世紀から20世紀初頭にかけて欧米で幾度となく隆盛を極めたムーヴメントです。エジプトマニアの詳細は、アンティーク物語『エジプトマニアとアンティークジュエリー』で解説していますので、この商品説明とともに、ぜひお読みになってみてください。
スカラベは、糞を転がして球状にします。この球体が太陽と重ね合わされ、その球状の糞を転がす動作が太陽の運行を連想させたことから、スカラベは太陽神と同一視されました。本ペンダントにおいても、スカラベの太陽を操る様子が再現されています。両手、両足の先端で挟み込んでいる小さな四角形のモチーフは、まさにこの太陽なのです。身体の中央から左右に広がる扇状のモチーフは、広げた羽を表しています。この羽を広げた姿は、古代より幾度も用いられているスカラベの伝統的なデザインです。
スカラベ右前足の中ほど(表側)に、18Kゴールドを示すイーグルヘッドと、シルバー800以上を示すイノシシの頭の刻印が押印されています。深く彫られた波線模様の上に刻印されているため、特にイーグルヘッドについては判別しづらい状態です。一般的に刻印が押されることのない表側で刻印を特定する手がかりとなったのは、ペンダント裏のビゴルヌ(bigorne)刻印。日本では詳細な情報がほとんど存在しないビゴルヌは、特定の条件下において、刻印の打刻時に使用される、「対」の刻印です。英語圏ではカウンターマークと呼ばれることもあります。蜂や蟻などのいろいろな昆虫がデザインのベースとなっているこの刻印については、いずれまた場所をあらためて解説させていただきます(英仏語ベースの情報も不正確なことが多いので、ご注意ください)。
華やかで重厚な装飾性を持つこのペンダントは、エジプトマニアのモチーフでありながら、当時の大きな流行であったネオ・ルネサンスや中期ヴィクトリアンのデザイン様式の影響も色濃く感じられます。宝石のカットは19世紀らしく不揃いであったり必ずしも整ったものではありませんが、歴史的なエジプトマニアの流れを色濃く反映した、時代を象徴する一点といえるでしょう。この時代の歴史的なジュエリー、古いアンティークジュエリーを愛する方におすすめしたいお品です。
※一部商品写真のロングチェーンは付属しません