商品詳細
パリのプライベートサロンで譲り受けた本ブローチは、ナポレオン3世時代(19世紀中ごろからの約20年間)の古典主義にインスパイアされた作品です。18世紀中ごろから19世紀初頭まで隆盛を誇っていた新古典主義(neo-classicism)と区別するために、「ナポレオン3世時代の」と表記いたしました。新古典主義については、いずれあらためて解説させていただきます。
ナポレオン3世時代の古典主義は、中世やルネッサンスに対する興味の再燃や、イタリアのジュエラー カステラーニ(Fortunato Pio Castellani)が火をつけた古代ギリシャやエトルリアスタイル(etruscan)趣味などをベースにした古典主義の潮流でした。この古典主義のスタイルがヨーロッパのジュエリー制作に大きな影響を与えたのです。
カステラーニは、「Campanaコレクション」と呼ばれるギリシャ・エトルリア・ローマの古代美術品コレクション(後にナポレオン3世が買取り、ルーブル美術館に収蔵。現在でもその一部はルーブル美術館に展示されています)に含まれる数百点に及ぶ古代ジュエリーを研究していました。古代の技法やスタイルを熱心に分析し、それをもとにローマの工房で2人の息子とともに古典主義テイストのジュエリーを制作したのです。カステラーニ製のジュエリーは、その美的価値と職人技術の高さで知られており、イタリアのみならず、フランスや英国のジュエリーに大きな影響を与えました。フィリグリーやグラニュレーションといった金細工の制作技術向上にも大きく寄与したということは、日本ではあまり知られていないジュエリー史の1ページかもしれません。カステラーニ家の詳細はアンティーク物語『カステラーニ家: 19世紀宝飾界の巨匠たち』をご参照ください。
このブローチペンダントにもカステラーニの影響が多く見られます。円盤のような形をしたゴールドの台座中央に配置されているのは、7個のハーフパールと黒いエナメルが施されたゴールドの花びらから成る大輪の花。この花を取り囲むように、それぞれ中央に1個のハーフパールが留められた可憐な小さな花が4輪セットされています。この4輪の小さな花を結ぶねじり線細工(filigrane torsadé)は古代から伝わる技法を用いて制作されたものです。各花びらの表面に施された髪の毛ほどの細さの流れるような美しい細工も見事な出来栄え。肉眼でもこれらの美しい装飾を確認することができますが、ルーペで見るとさらにくっきりと模様が浮き上がります。中世およびルネッサンスにインスパイアされたナポレオン3世時代の古典主義の繊細で美しい世界を垣間見ることができますので、お手元に届きましたらぜひ拡大してご覧になってみてください。花びらの縁には黒いエナメルが施されていますが、これはこの時代のジュエリーによく用いられたデザインパターンです(アンティーク品のためエナメルの一部に薄くなっている箇所があります)。
このジュエリーのもう一つの特徴は、天然のハーフパールがオープンバックセッティングで留められていること。裏からご覧いただくと、多くの層から構成される天然真珠の断面を観察することができます。養殖真珠の場合、大きな核の周囲を薄い真珠層1層が覆っているだけなので、このような断面にはなりません。
クラスプ部には18Kゴールドを示すフランスの「イーグルヘッド」の刻印が入っています。
先端のベゼルにチェーンや紐を通すことでペンダントとしてもお使いいただけます。ブローチ、ペンダントとして、多彩なコーディネートをお楽しみください。(商品写真のチェーンは付属しません。本体のみの販売です。)