時を超えて愛される輝き:ローズカットダイヤモンドの魅力と歴史
Bonjour 皆さん!オーナーのラファエルです。
本記事ではローズカットダイヤモンドをご紹介させていただきます。ローズカットは特にアンティークジュエリーファンに人気の高いカットですね。カットの具体的な形状など外形的なことに関してはネットや書籍で多くの情報が紹介されています。そこで、ここでは一般的な解説はほどほどにして、少し異なった角度からスポットを当てたひと味違うトピックもお楽しみいただけるよう心がけました。
近年、ローズカットは秘かな人気を集め、アンティークジュエリーファン以外の方たちの間でも注目される存在になっています。その原因の一つは欧米のTVドラマや映画。ダウントン・アビー、ブリジャートン家、ゲーム・オブ・スローンズ、ピーキー・ブラインダーズなどのドラマでアンティークファッションが人気となり、このファッションにフィットするアンティーク&ヴィンテージジュエリーにも注目が集まったためです。
ブリリアント系カットのような強い輝きを持たないローズカットは、アンティークやヴィンテージ感が強く出ます。どちらかというとシンプルで洗練された感性を持つ人々を魅了しているようです。リリー・コリンズ、マシュー・マコノヒー、ジェニファー・アニストンなどのセレブがエンゲージメントリングにこのスペシャルなカットを選んでいます。
それでは以下の順にローズカット(ダイヤモンド)の背景についてご紹介させていただきます。
- ローズカットとは
- ローズカットダイヤモンドの魅力
- ローズカットダイヤモンドの歴史
- 歴史的なローズカットダイヤモンド
ローズカットとは
ローズカットの形状・スタイルに関する情報はネット上に多数存在しますので、本記事ではあまり深入りしません。以下のようなカット図を目にされたことのある方はたくさんいらっしゃるでしょう。
名前の由来は少し開いたバラのつぼみ。一般的に、丸みを帯びた輪郭と複数の三角形のファセットで構成され、上図のように平らな底面を持つのが特徴です。なお、派生型であるダブルローズカットは二つのローズカットを貼り合わせたようなスタイルで、底面が存在しません。
ダブルローズカットダイヤモンド
輪郭も真円だけではありません。細長いクッション型や、オールドマイン的なもの、表現が難しいいびつな形状のものも多く存在します。ジュエリーのデザインに合わせて形状を意図的に変化させているケースもありますが、多くの場合は、原石が持つボリュームや魅力を最大限に引き出すことを目的としたカットが採用されているといえるでしょう。
このように19世紀以前はファセットも輪郭も非対称・不定形なスタイルのものが多く存在しました。ただし、19世紀に制作されたものが全ていびつな形状であったというわけでもありません。特に19世紀後半からは、工作機械の発展やニーズの変化により、人間の目では対称的に見える精密なプロポーションの石も制作されるようになりました。南アフリカの鉱床発見によるダイヤの価格低下により、そこまで原石のボリュームを活かしきる必要がなくなったことも影響しているものと思われます。
アンティークらしい素朴なカットが好きか、きっちり対称的にデザインされたカットに魅力を感じるか、人それぞれ好みが分かれるところでしょう。いずれにしても、どちらも宝石の潜在的な魅力を引き出す美しいデザインであることは間違いありません。
ローズカットダイヤモンドの魅力
ローズカットは底面が平らで実質的にパビリオンファセットが存在しないため、光の反射・拡散がブリリアント系カットとかなり異なります。よりソフトなニュアンスが強調された、暖かくロマンチックな輝きを持っているといえるでしょう。ローズカットダイヤモンドを用いたジュエリーのデザインが軽やかで繊細、そしてしなやなイメージなのは、この輝きの特性に合わせるためなのです。また、その柔らかい光がアンティークやヴィンテージ感をより一層高めていることも忘れてはいけません。
ローズカットはロウソクの光などの控え目な明るさの中で特に美しく見えるといわれています。その要因の一つはファセットの広さ。一つ一つのファセットが広いこのカットはダイヤモンドの透明感を引き立て、さほど強くない光でも落ち着いた美しさを演出することができるのです。ファセットによる光のグラデーションが少なく石の中がはっきり見えますので、インクルージョンの多い石には向いていないかもしれませんね。
底面が平らであることは、柔らかい輝きを演出すること以外に、もう一つ大きなメリットがあることをご存じでしょうか。ブリリアント系など多くのカットでは重量(カラット数)が上部(クラウン)と下部(パビリオン)に分散されています。対して、ローズカットダイヤモンドにはパビリオンがありませんので、重量が上面、つまりダイヤモンドの表面に集中することになります。同じカラット数の他のカットのものに比べ大きく見えるということです。
平らな底面を持ちますので、着用者の肌が直接ダイヤモンドに触れるデザインのジュエリーを作ることも可能。特に薬指は心臓につながっているとされており、ローズカットダイヤモンドを使用したエンゲージメントリングの着用者は、指輪との特別な絆を深めるといわれています。
ローズカットダイヤモンドの歴史
15世紀まで使用されていたダイヤモンドの伝統的なカットはポイントカットやテーブルカットなどファセットの少ないものでした。
ダイヤモンドの美しさを高めるために選ばれた手段は、より多くのファセットを追加して石をさらに輝かせること。その進化が、ローズカットを創り出したのです。ダイヤモンド粉末を塗布して研磨するラップ盤の発明もこの進化に寄与しているといえるでしょう。
ではこの進化はいつどこで起きたのでしょうか。ローズカットの発祥に関する説は2つあります。15世紀にインドで考案され、16世紀にヨーロッパに伝わったとする説と、インドはダイヤモンドの供給源でしかなく、カットそのものは16世紀にヨーロッパで開発されたという説です。
歴史的な背景や技術的な特徴などを総合的に判断すると、インド発祥説は有力であるといえるかもしれませんが、これを裏付ける決定的な証拠はありません。また、インド発祥説においても、その後ヨーロッパで独自の工夫を加えることでより美しいカットに変化していったとされています。ビッグバンの場所はさほど重要ではなく、ヨーロッパで発展していったということに着目すべきでしょう。
主にベルギーやオランダの職人たちがローズカットを洗練させていきました。このような背景から、ローズカットには「アントワープ」「ダッチローズ」などの名前が付けられたスタイルが存在します。
特に発展に重要な役割を果たしたのはベルギーのアントワープ市です。アントワープは、輸送の利便性や周辺諸国との政治的・経済的つながりなど多くの利点を備えており、ヨーロッパで最も豊かな都市の一つでした。ダイヤモンドのカットと取引の中心地となり、今日に至るまでその勢いは衰えていません。オーナー・ラファエルもブリュッセルに住んでいた子供の頃にアントワープのダイヤモンド工房を見学したことがあります。
15世紀もしくは16世紀に初めて登場したローズカットダイヤモンドですが、人気が最も高かったのは18世紀から19世紀にかけて。この流行には大きく二つの要因があります。ブラジルにおけるダイヤモンド鉱床の発見と、マッコウクジラの鯨蝋を原料とするロウソクの普及です。二つ目の要因はかなり謎な感じですが、解説まで今しばらくお待ちください。
それでは18世紀初頭にワープしましょう。伝説のマリー・アントワネットが生まれる四半世紀ほど前の時代です。この頃、ダイヤモンドの主な供給源であったインドは徐々に枯渇しつつありました。しかし、世界のダイヤモンド市場に助けがやってきます。それはブラジルのミナス・ジェライス高原を流れるジェキティニョニャ川です。
1729年のある日、ジェキティニョニャ川の泥だらけの川底にキラキラ光る何かが潜んでいるのを現地の方が見つけました。ダイヤモンドです。少し誇張された伝説かもしれませんが、粗い丸いダイヤモンドをバケツいっぱい集めることができたそうです。ダイヤモンドの形状がインドで採掘されていた結晶状の美しい八面体のものと異なるのは、漂砂鉱床(母岩が川に流され粉砕され、原石が川底や海岸に溜まった鉱床)であったからでしょう。
水中でダイヤモンドを採取するのは効率がよくありません。そこで、別途水路を作り川を干上がらせ、露出した川床からダイヤを採取することとなりました。
ジェキティニョニャ川床における採掘 出典:Wikipedia
ブラジルのダイヤモンドはアントワープに流れ込み、ローズカットダイヤモンドが記録的なペースで生産されるようになりました。その発祥から数世紀も経っていましたが、これがローズカットダイヤモンドが広く評価されるようになった最も重要な出来事であるといえるでしょう。
ローズカット流行の歴史における重要な出来事No.2は、宝石そのものではなく、マッコウクジラの頭部から来ています。 マッコウクジラの頭の中には浮力調節に使われるといわれている「鯨蝋(ゲイロウ)」や「脳油」と呼ばれる油脂があり、その採取がクジラ狩りの目的の一つでした。このマッコウ鯨蝋がローズカットの流行にひと役買うことになるのです。
18世紀初頭までは獣脂(羊の脂肪)がロウソクに使用されていました。しかし、獣脂のロウソクは燃やすとひどい臭いがします。あまりの悪臭に、いくつかの都市ではロウソク作りが禁止されていました。
ところがマッコウ鯨蝋で作ったロウソクは燃焼時に臭いがしません。さらにはより美しい光を発することも分かり、このロウソクが市場に溢れるようになりました。どの家庭でも暗闇の中でこのロウソクやマッコウ鯨蝋のオイルランプが輝くこととなったのです。
大きく広がったローズカットダイヤモンドのクラウンはマッコウ鯨蝋のロウソクやオイルランプの下で星のようにきらめき、多くの人びとの心を魅了しました。この体験がダイヤモンドの普及をさらに加速させ、1800年代末まで続く息の長いローズカットの流行を生み出したのです。
歴史的なローズカットダイヤモンド
歴史に名を残す有名なローズカットダイヤモンドを締めにいくつかご紹介いたします。それぞれ個性的な魅力を放つ逸品揃いです。
■サンシーダイヤモンド
ペアシェイプのローズカットクラウンと浅いパビリオンを持つ淡黄色のダイヤモンド。この独特のプロポーションが、知名度と歴史的価値を高めている理由の一つです。ヨーロッパで多くの王族や貴族が所有していた歴史があります。重量は55.23カラット。
■ボー・サンシー・ダイヤモンド
ややずんぐり気味のペアシェイプ。重量は34.98カラットです。何世紀にもわたりさまざまな国(フランス、オランダ、イギリス、プロセイン)の王室に所有されていた歴史を持っています。サンシー・ダイヤモンドと同じ「サンシー」が通称に含まれるのは、いずれのダイヤモンドもフランスの外交官ニコラ・ド・アール・ド・サンシーに一時期所有されていたためです。2012年にサザビーズのオークションに出品され、約7億7千万円で落札されました。
■ドレスデン・グリーン・ダイヤモンド
ローズカットのクラウンとステップカットのパビリオンを持つハイブリッドなカットのダイヤモンド。世界最大級のグリーンダイヤモンドの一つであり、ドイツ・ドレスデンのグリューネスゲヴェルベ宝石博物館に展示されています。重量は約41カラット。最大で最高級の天然グリーンダイヤモンドといえるでしょう。
■オルロフ・ダイヤモンド
インド原産の大きなダイヤモンド。寺院に祭られていた偶像の目に使われていたという伝説があります。1774年には、ロシア・エカテリーナ大帝の王笏(王などが権威を象徴するために持つ儀礼用の杖)に埋め込まれました。大きさに関してはコピペ連鎖に起因する誤情報が多いのですが、所蔵先のクレムリンは189.62カラット(推定値)であると公表しています。
出典:Wikimedia
■フロレンティン・ダイヤモンド
イタリアのメディチ家やオーストリアのハプスブルク家の所有物として知られています。126ものファセットを持つダブルローズカット。重量は137.27カラット、色は淡黄色です。1918年に行方不明となり、以降確認されていません。1920年代に米国に持ち込まれ、いくつかの小さなダイヤモンドに分割されて販売されたという噂があります。
下の写真はエイグレット(髪飾りの一種)に取り付けられたフロレンティン・ダイヤモンドです(上部の最も大きい石)。
出典:Wikimedia
歴史的なローズカットダイヤモンドはペアシェイプ系のプロポーションのものが多かったですね。
それでは長くなりましたので、そろそろ終了としましょう。
どちらかというとメインよりサブとして用いられることの多い、地味な印象もあるローズカットですが、長い歴史と興味深い背景のある素晴らしいカットであることをお伝えできていれば嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!