商品詳細
エリザベス1世をモチーフとした、19世紀末のハードストーン(サードニクス)カメオブローチです。ストーンカメオを手にされたことの無い方は、その像の厚みと、精巧な彫りの技術に驚かされることでしょう。ブローチを持った時に感じるずっしりとした重さも、ストーンカメオならではの魅力です。フランスで“Glyptique”と呼ばれる硬石彫刻は、古来より王侯貴族に愛され、ジュエリー芸術の中でもひときわ格調高い存在とされてきました。
ストーンカメオに用いられる積層メノウのモース硬度は6.5~7。ガーネットやベリル類とほぼ同等の硬さです。現代に多い機械彫りの量産品とは異なり、長い時間をかけて手作業で彫られたアンティークのストーンカメオは、きわめて希少で高い価値を持ちます。メノウにはいくつかの種類がありますが、本品の素材はサードニクスです。一見オニキスのように黒く見える地の色は、よく見ると暗褐色であることがわかります。光に透かすと赤みを帯びた褐色が現れますので、ご確認ください。
エリザベス1世を象った像の色合いは、ややピンクがかったようにも見える薄いアイボリーです。髪やドレスの一部には、3層目として、さらに濃い色が現れています。3層カメオは、このように3層目の色を像の適切な部分に当てるよう、彫る位置を設計して作られていくのです。カメオの彫りにはさまざまなレベルがありますが、本品のものは最上級といえるでしょう。立体感のある像の彫りは精緻で、作者の傑出した技量が感じられます。とりわけ手の込んだ細工は、一本一本を彫り出したかのように見える豊かな髪の毛や、レースの質感を見事に表現した、エリザベス・カラーとも呼ばれる大きな立ち襟に表れています。特に立ち襟は出色で、これほどまでに美しく丁寧に表現されたものを今まで目にしたことがありません。
一見ではわかりにくいかもしれませんが、見事に使い分けられている光沢にも驚かされました。顔など肌の部分はマットな質感で、イヤリング、ネックレス、髪などは美しく磨き上げられています。イヤリングやネックレスはくっきり浮かび上がりつつ、ツヤが強すぎない顔の質感は像全体に自然に溶け込み、全体として上品で違和感のない仕上がりとなっています。像の厚みは最大で4mm近くあり、カメオ全体のバランスを考えると、高浮き彫り(ハイレリーフ)と呼んで差し支えない高さです。また、像をくっきり引きたてるために、外周は内側まで彫りこまれています。カメオ裏には軽く針でなぞったような数字が見られますが、これはアンティークカメオにおいてよく見かけるもので、工房やオークションハウスなどが内部管理用に彫った番号です。
フレームは18Kローズゴールド製です。ピンと留め具のCクラスプ部にはフランスのイーグルヘッド刻印が押されています。メーカーズマークもはっきりと確認できますので、後年にアセイオフィスに持ち込まれた時点で刻印されたものと思われます。ピンは19世紀らしい、本体をはみ出る長いものです。19世紀半ば頃までは、フレームに華美な装飾が施されることの多かったカメオブローチも、19世紀末に向かうにつれて、本品ようにすっきりとしたデザインのものが増えていきました。カメオの側面がフレーム上部にはみ出したセッティングも19世紀末頃の特徴です。石を側面から見ることで、カメオが張り合わせ(メノウとガラス成型の像を接着したもの)ではないことを容易に確認できるようになっています。3層カメオは、ひと目で天然石であることがわかる点も、大きな魅力ですね。なお、カメオを光に透かした際に見える右上の線状の影は内部のインクルージョンです。ヒビではありませんのでご安心ください。
本ブローチが格納されていたオリジナルのジュエリーボックス内側に、”A.Priet/Angers”と印字されています。”Angers”はこのカメオを仕入れたフランスの町の名、”A.Priet”は1870年代から1890年代にAngersで活動していた著名な時計商・宝石商の「Alexandre Priet(アレクサンドル・プリエ)」です。とある資料から詳細な所在地が判明しました。大変素敵な建物が現存していますので、記念に(元)店舗及び住宅(改修により、前後に隣接する2軒の建物の背後を繋げた造りになっています)の写真を掲載しておきます。※ジュエリーボックスは販売品に含まれません。
ブローチには使用感がほとんどなく、大変良い状態が保たれています。長年にわたりコレクションとして大切に守られてきたのでしょう。時を超えて受け継がれてきたこの素晴らしいアンティークジュエリーを、これからも大切にしてくださる方のもとへお届けできれば幸いです。