商品詳細
レポゼ技法で立ち上げられた精緻なグリフィン(グリフォン)像が目を惹く、アールデコ期のバーブローチです。セミバロックの天然真珠をくわえたその威厳ある姿が、いにしえの荘重な雰囲気を感じさせます。この時代のジュエリーにグリフィンのモチーフが使用されたケースは極めて稀ですので、コレクターズアイテムとしても価値の高い逸品といえるでしょう。
レポゼ技法は、金属板の裏側から叩いて模様を浮き上がらせる伝統的な打ち出し技法で、もっとも古い金属加工法の一つといわれています。19世紀~20世紀初頭においても重要な金属工芸技法の一つとして引き続き使用され、特にジュエリーや装飾美術の分野で、その技術は洗練されていきました。刻印はありませんが、当店にて科学的な検査を行い、18K以上のゴールドであることを確認しています。ブローチピンは、ラウンドヒンジ+トロンボーンクラスプという、アールデコ期らしい構成です。おそらくフランスで制作されたものですが、イギリス、ベルギーなどの可能性もあります。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、グリフィンなどの幻獣をモチーフとしたジュエリーがたくさん作られました。アンティークジュエリーにご興味をお持ちの方であれば、グリフィン(英Griffin、仏Griffon)やキメラ(英Chimera、仏Chimère)などの架空の動物がアールヌーボー期を代表するモチーフの一つであることをご存じかと思います。この時期にモチーフとして描かれた図柄は、本品も含め、多くの場合、厳密な意味では、古代の神話に登場するそれらの幻獣を正確に描写したものではありません。多くの作品では幻獣の正確な描写よりも、象徴的・装飾的な意味合いで「グリフィン」や「キメラ」と総称されているのが実状です。
グリフィンなどの幻獣は、象徴主義を重んじていたアールヌーボー期のジュエリーモチーフとして人気を博しました。抽象的な概念や精神性などを象徴するのに、非常に適していたのです。また、その流れるような身体の線や、大胆なデフォルメが、アールヌーボー特有の有機的なデザインや躍動感を生み出す上で非常に効果的だったということも、この時期の人気の理由として挙げられるでしょう。
時代は進み、アールヌーボーに続いて、アールデコが登場します。ごく一部の例外を除き、アールデコ期に幻獣がジュエリーのモチーフとして用いられることはありませんでした。これは、アールデコが過去の派手な装飾性や象徴主義から離れ、幾何学的でモダンな美しさを追求した、新しい時代を反映したスタイルへ移行したためです。
そのような時代性にも関わらず、本ブローチにグリフィンが採用された理由を考察してみましょう。一つは、様式が移行する過渡期の作品であること。本ブローチの制作時期はアールデコ期がスタートしたとされている1920年頃ですので、アールヌーボー様式の影響を受けていたことが考えられます。また、アールヌーボー期に重用された、精神性を象徴する幻獣モチーフとしての位置づけではなく、紋章に描かれるグリフィンやライオンがデザインモチーフとして採用されているケースも除外できません。紋章に描かれた、爪を広げて立ち上がったライオンの姿は、皆さまにもお馴染みなのではないでしょうか。本ブローチにはアールヌーボー期に多く用いられた唐草系のボタニカル装飾も施されていますので、アールヌーボー様式の影響と紋章の図像、両方の要素を取入れたデザインであると考えられます。
アールデコ期に幻獣モチーフが採用された例は極めて稀であり、本品はその時代の過渡期を示す貴重な史料です。美術史的価値の高い稀少なコレクションピースとして、お手元に迎えるにふさわしい逸品といえるでしょう。また、グリフィンは「守護と防衛」、「王権と権威」、「勇気と忠誠」を象徴していますので、お守りとしてお使いいただくのもお勧めです。