アンティークのシトリンは全て非加熱って本当?

Bonjour 皆さん!オーナーのラファエルです。

シトリンはアンティークジュエリーファンにも大変人気のある宝石ですね。今回はこのシトリンにまつわる意外と知られていないお話しをご紹介いたします。

目次

  • シトリンとは
  • 加熱による色変化の仕組み
  • アメジスト加熱の起源
  • アンティークジュエリーのシトリン

そもそもタイトルの内容が意味不明、という方に向けてまずシトリンの基本を簡単におさらいしておきましょう。

シトリンとは

シトリン アールデコリング(ダイヤモンドの脇石)シトリン アールデコリング(ダイヤモンドの脇石)

シトリンの鉱物名はクォーツ(石英)です。

クォーツは通常二つのグループに分類されます。結晶が目に見える「水晶」のグループ(顕晶質="macrocrystalline"と呼ばれます)と、クォーツの非常に細かい結晶が緻密に固まっている「カルセドニー(玉髄)」(微晶質や潜晶質="microcrystalline"と呼ばれます)です。

シトリンはこのうち水晶のグループに属するイエロー系の宝石で、薄い黄色からオレンジや褐色などバラエティーに富んだ色合いがあります。他に水晶のグループに属するのは、アメジスト(紫水晶)や無色のロッククリスタル、スモーキークォーツやミルキークォーツなど。

 アメジストに比べ天然のシトリンの産出量は非常に少なく、現在流通している多くのシトリンはアメジストを加熱して色を変化させたものです。この加熱による色の変更は一般的に市場に認められたもので、いわゆる「処理石」にはあたらないとされています。鑑別における鉱物名も「天然クォーツ」です。宝石名はもちろん「シトリン」。天然、加熱に関わらず、宝石名の横には「通常は加熱されています」などの但し書きが付きます。ちなみにスモーキークォーツにも加熱によりシトリン系の色に変化する個体があります。

 非加熱のシトリンはその希少性から非常に人気がある宝石。真偽はさておき「非加熱・天然」をうたうことはジュエリーやルース販売時に大きなアピールポイントになるのです。

上の写真はアンジェリーナ・ジョリーがスミソニアン国立自然史博物館に寄贈したシトリンのネックレスです(アンティークジュエリーではありません)。スミソニアン博物館の宝石・鉱物コレクションにおける最初のシトリン・ジュエリーであり、さらにセレブリティが所有していたことから、非加熱のものである可能性が高いといえるでしょう。

余談ですがシトリンの語源はレモンの木を表すラテン語の"citrus"。フランス語でレモンを指す"citron"の語源も同じく"citrus"です。なお、シトリンと同じイエロー系のクォーツであるレモンクォーツは発色の仕組みが異なっており、鑑別でも市場でもシトリンとは異なる石として扱われます。

さて、本日のお題は「アンティーク品なので、このシトリンはアメジストを加熱したものではありません」という解説が果たして正しいのかどうか、ということです。

とりあえず先に結論を言っておきます。”必ずしも正しいとは限りません”。

加熱による色変化の仕組み

それではアメジストの紫色が加熱によりシトリンの色に変化する仕組みをさっと見ていきましょう。
※興味ない、という方はこの章をスキップしていただいても大丈夫です。

アメジストが紫色なのは紫色の不純物が混じっているからではありません。二酸化ケイ素である水晶のケイ素原子のごく一部が鉄に置き換わっていることが紫色発色の原因です。
※化学的背景にご興味のある方はアンティーク物語の前号(蜂ブローチからの「同形置換」からの「他色」と「固溶体」)をご覧ください。

詳細は省きますが、純粋な水晶には含まれない鉄イオンの影響(電子バランスの変化)で黄色系の光が吸収されるようになり、その補色である紫色が通過するために紫色に見えるのです。

紫色に見えるアメジストは、400~500℃で数時間加熱することにより、シトリン系の黄色に変化します。これは熱により上述の電子バランスがさらに変化し、これまでとは逆に紫系の色のみが吸収され、黄色系の色が通過するために発生する現象です。

ただし、全てのアメジストがこのように変化するわけではありません。色が全くなくなってしまったり、白色や、時には緑色に変化してしまうものもあるそうです。

アメジスト、加熱シトリン、ロッククリスタル左から:アメジスト、アメジストを加熱したシトリン、ロッククリスタル 出典:ディーケイズトレジャーズ

期間や温度などに違いはあるにせよ、自然界でもほぼ同じ原理でシトリンが生み出されます。加熱されたものに業界がさほど目くじらを立てないのは、そのような背景もあるからなのです。

例えばカルセドニー、特に多くのメノウはかなり古い時代から染料入りの溶液に浸すという超人工的な方法で着色されてきました。それに比べれば、地中で長い時間かけて起きたことを短時間で再現して色を変化させたシトリンは天然に近いといっても良いのかもしれません。

アメジスト加熱の起源

ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、ブラジルはアメジストの主要産地の一つ。産出量が豊富なだけでなく、その品質が高いことでも有名です。

採掘の歴史は長く、18世紀には手作業による採掘が始まっていました。生産地としての伸長著しく、19世紀中頃から後半には多くのヨーロッパ諸国において主要な輸入元となっています。

アメジストの加熱によりシトリン生成が可能であることを発見したのはドイツからの移民August Lamberts氏。リオグランデ・ド・スル州でアメジスト関係の仕事に従事していました。

1883年のある日、August氏は色が薄く価値の低いアメジストのジオード(晶洞)を並べてバーベキューグリルを作りました。夕食としてバーベキューを焼いた次の日の朝、ジオード内の石が黄~赤などさまざまな色に変化しているのに気付いたのです。

この発見により、リオグランデ・ド・スル州にシトリン(生成)産業が誕生しました。

リオグランデ・ド・スル州のアメジスト鉱山入口(1992年) 出典:Mindat.org

加熱によりアメジストが黄色に変化するという現象は1883年にブラジルで発見された、というトピックは以前からぽつぽつ見かけてはいましたが、その信ぴょう性や詳細に関する確かな情報をなかなか見つけることができませんでした。

アンティークジュエリー界にありがちな都市伝説や誤情報のコピペ拡散である可能性もゼロでは無いと考えていたのですが、ある日ついに信頼できる情報ソースを発見することができたのです。

 地質学者でリオグランデ・ド・スル連邦大学の元教授であるHeinrich Theodor Frank氏のFacebook投稿です。ちなみにこの投稿に添付されている写真のバーベキューグリルはもちろん現代のもの。Frank氏が以前リオグランデ・ド・スル州近くで撮影した、とコメントされています。1883年の発見ストーリーがイメージできる良い写真ですね。

 1883年というとかなり昔のことのように感じますが、産業革命からかなり時間のたった、先進的な工業による大量生産が普通に行われていた時代でした。一定温度で数時間加熱するという非常にシンプルな工程ということもあり、大量のシトリンを生成できる産業に成長するまでさほど時間はかからなかったでしょう。ましてやアメジストの大産地であるブラジル。Frank元教授も発見によりリオグランデ・ド・スル州にシトリン産業が誕生したと書いていますし、遅くとも数年後には多くの加熱シトリンがヨーロッパに輸出されたことは想像に難くありません。

アンティークジュエリーのシトリン

ここまでお読みになった方はアンティークジュエリーのシトリンが必ずしも非加熱のものではないことをご理解いただけたと思います。

比率に関する確かなデータはありませんが、1880年代半ば以降のシトリンには一定の割合でアメジストを加熱したものが含まれていたと考えるのが妥当でしょう。逆に、1880年代より前に制作されたジュエリーに留められている「オリジナルの」シトリンであれば間違いなく非加熱のものであるといえます。

非加熱シトリンのブローチ(制作:1860年代)

 数は少ないですが、もちろん現行品にも非加熱シトリンが使われていることがあります。インクルージョンの状態や色合いなどで加熱処理されたものかどうかをある程度判別することはできますが、原石ではなくジュエリーに仕立てられた状態で一般の方が判別するのはかなり厳しいでしょう。

判別方法についていろいろな情報をネットで見つけることはできますが、その内容は正直微妙です。また、天然のシトリンには色やインクルージョンなどが異なるいろいろなタイプのものがありますし、加熱により作られたシトリンもベースとなるアメジストの状態や加熱方法の違いなどで千差万別であるといえます。

化学的な構造は同じ、と割り切って、非加熱か否かについてはこだわらないのが一番かもしれませんね。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!