スコット卿も裸足で逃げ出すオパールの麗しき伝説

Bonjour 皆さん!オーナーのラファエルです。

今回は少し趣向を変えて書いています。本ブログ(アンティーク物語)が最も大切にしているのは科学的な裏付けや事実に基づいた情報。本記事では一時的にその路線から離れて、非科学的&幻想的な世界でリラックスすることにしました。肩の力を抜いてお楽しみいただければと思います。

それでは早速本題に入りましょう。

皆様はオパールの伝説と聞いて何を連想されますか?日本では多くの方が「誕生月の人以外が身に着けると災いがふりかかる」という迷信を思い起こされるのではないでしょうか。これはスコットランドの小説家、ウォルター・スコット卿が1829年に書いた小説「Anne of Geierstein」に由来するものです。

たしかにヨーロッパではこの小説を契機として、一部の人がつまらない迷信を信じていたこともあります。しかしそれは19世紀のほんの一時期。オパールは長い間、幸運、予知能力、災い除けや富と関連付けられた神々の宝石と見なされてきたのです。

以下の順に麗しい伝説の数々をご紹介させていただきます。

  • 古代ギリシャ時代
  • 古代ローマ時代
  • ムハンマドの時代の中東(アラブ)
  • 中世ヨーロッパ
  • オーストラリア(アボリジニ)
  • スカンジナビア

 ダブルオパールのイエローゴールドリングダブルオパールのイエローゴールドリング 

古代ギリシャ時代

古代ギリシャではオパールが予知能力を持つとされ、占いや神託に使われることがありました。所有者に千里眼を与えるとする言い伝えもあります。

また、「神々の涙」から作られた宝石であると信じられ、崇められていました。神々が人間の愚行を嘆き、流した涙が地上に落ちたものであると信じられていたのです。この伝説では、オパールの変幻自在の色合いが神の力やその感情を象徴していると解釈されています。

 古代ローマ時代

古代ローマ時代の呼び名は「opalus」。サンスクリット語の「úpala」(貴い石)が語源とされています。貴い石という称号が与えられた宝石はもちろんオパールだけ。それほど貴重な石であると認識されていたということでしょう。

遊色効果による変幻自在の輝きは神秘的な力を持つと信じられており、病気を治すための護符としても使われていました。特に、全ての色を含むことから「神々の祝福」や「恩寵」と関連づけられ、持ち主に幸運をもたらすとされました。

また、オパールの遊色が刻々と変わることから、変化や移り変わり、運命の象徴ともされました。これは特に当時のローマ人にとって、運命の不確実性をコントロールできるものとして人気があった理由の一つです。

非常に珍しく高価で、主に上流階級の貴族や権力者に好まれていました。当時、巨額の財産に匹敵するほどの価値を持ち、持ち主の富と地位を誇示する象徴だったのです。

シェークスピアの戯曲「アントニーとクレオパトラ」でも知られるローマの執政官マルクス・アントニウスがローマの元老院議員ノニウス(Nonius)から貴重なオパールの指輪を手に入れようとしました。譲渡させられることを避けるためにはローマから離れるしかありません。そこで、ノニウスは大切にしている指輪を手放さないために、ローマを離れることを選んだそうです。このオパールは、約200万セステルティウス(古代ローマの通貨単位の一つ)と評価されていたといわれています。「セステルティウス」の現代通貨換算には諸説ありますが、少なく見積もっても日本円で数億円にはなるようです。

もう一つ、非常に興味深い伝説があります。多彩な輝きを放つのは、その内部でルビー、サファイア、トパーズなどの宝石が成長しているからだと考えられていたそうです。光の成分や屈折などに関する科学的な知識がまだ無い時代ですから、このように突飛な考えも出てくるのでしょう。現代では決して思いつくことのない神秘的で個性的なその発想に少し感動しました。

アンティーク 3石オパールとダイヤモンドのバーブローチ3石オパールとダイヤモンドのバーブローチ

 ムハンマドの時代の中東(アラブ)

とりあえず伝説が最も多く存在した時代をアラブに関する章のタイトルとしています(ムハンマドの時代とはイスラム教発祥の時代です)。実際にはその時期からかなり先の時代まで、アラブにおいてオパールに関する数多くの伝説が流布されていたということを付け加えておきます。

最もメジャーなアラブの伝説は、稲妻が地上に落ちた後に残った光が結晶化しオパールになるというもの。身につけていると雷から守ってくれると考えられていました。この伝説は、遊色効果を自然の神秘的な力が凝縮されたものだと考えた結果生まれたものです。雷だけでなく、日頃の災いを防ぐお守りとしても考えられていたようです。

この宝石が自分の姿を消すマントになるという伝説もあります。少し戻りますが、実は古代ローマ時代にもオパールを月桂樹の葉で包むと透明人間になることができるという一風変わった伝説がありました。月桂樹というところがいかにも古代ローマらしいですね。ローマで生まれた伝説が場所と時代を超えてアラブに伝わっていったのかもしれません。

また、14世紀のアラブの伝説ではオパールが火の神によって作られたとされており、その神秘的な起源にまつわる話が多く存在します。火は変化やエネルギーの象徴とされ、多様な色の変化はこの火の神からの贈り物と見なされていたのです。神との関連から、希望や幸運をもたらすとも信じられていました。

ヴィンテージ メキシコオパールのシルバーリングメキシコオパールのシルバーリング

中世ヨーロッパ

あまりにも珍しくて美しい宝石であったために、中世ヨーロッパではしばしば「魔法の石」と見なされていました。全ての色を含むことからあらゆる宝石の中でも最も特別な力を持っていると信じられていたのです。

また、「希望」と「純粋さ」を象徴するものとされ、特にヨーロッパの王族や貴族に人気がありました。

フランスのシャルル五世はオパールを「希望の石」と呼び、長い期間愛用していたとされています。少し中世を超えますが、イギリスのエリザベス朝時代には、オパールが高貴さや美を象徴するものとして扱われていました。エリザベス一世はこの宝石の美しさに魅了され、多くのジュエリーに使用していたことが知られています。

オーストラリア(アボリジニ)

オパールは、オーストラリアの国石です。特にアボリジニにとっては特別な意味を持つ宝石で、彼らの信仰や神話において重要な役割を果たしてきました。伝説の中でオパールはしばしば創造の物語と結びつけられ、神々が大地を創造する過程で生まれたとされていたのです。

創造の神が虹の輝く色を捕えて融合させ、オパールを創り出したという古い伝説があります。この伝説のもう一つのバリエーションは、神が虹の道を進むとその跡に光の痕跡が残り、それが結晶化してオパールになった、というものです。

オパールは天と地を結ぶ橋であり、祖先の精霊たちがこの石を通じて人々を見守るのだという言い伝えもあります。また、宇宙の星々が落ちてきて形成されたものであるため、夜空の星々が地上に表れたかのような美しさを持つのだという伝説など、数多くの物語がアボリジニにより語り継がれてきました。

オパールはただの宝石ではなく、彼らの宗教観や歴史が息づく象徴的な存在なのです。

オパールとダイヤモンドのアールデコリングオパールとダイヤモンドのアールデコリング

まとめ

オパールにまつわる数々の伝説、いかがでしたでしょうか。お読みいただいた通り、ほとんどの言い伝えは幸福や富、神々に結びつくポジティブな内容です。これらの麗しい伝説の圧倒的なボリュームに比べれば、ウォルター・スコット卿が書いた一編の小説におけるオパールの設定など、取るに足らないものだといえます。

ヴィクトリア女王がオパールを愛用し、王室の象徴的な宝石として取り入れたことはよく知られています。これにより19世紀前半に書かれたスコット卿の小説による一時的な悪評は払拭され、むしろ高貴でエレガントな石としての評価が定着しました。彼女の影響によってオパールは19世紀後半から20世紀にかけてのジュエリー界で重要な位置を占めることとなったのです。

数々の美しい伝説はさておき、オパールが美しく魅力的な宝石であることは皆さまも異論はないかと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!